五島美術館(世田谷区上野毛3、TEL 03-5777-8600)は現在、「館蔵 秋の優品展-絵画・書跡と陶芸」を開催中で、一昨年発見された夏目漱石の「門」の直筆原稿の欠落部分4枚を加えた全751枚一式で初公開している。
画家・書家の中村不折(ふせつ)の染筆による題と箱書きを伴った三冊本仕立ての展示
「門」は、明治時代の文豪・夏目漱石が1910(明治43)年3月1日~同年6月12日にかけ、朝日新聞紙上に104回にわたり連載した小説。「三四郎」「それから」と並び「愛の葛藤を描いた漱石の三部作」と称される。
同3作はすべて漱石直筆の原稿が保存されているが、唯一「門」の第14回の8枚目と第70回の5、6、7目の4枚が行方不明とされていた。欠落していた4枚は100年以上を経て一昨年6月に発見され、残りの原稿747枚を保管する同館敷地内の「大東急記念文庫」が収蔵することになった。毎年春と秋の年2回、館蔵コレクションから各分野の代表作品を紹介する「名品展」を開く同館では、今秋の機会に同4枚の原稿用紙を加えた「完全版」を一般に初披露することを決めた。
同原稿は、漱石の知己だった画家・書家の中村不折(ふせつ)の染筆による題と箱書きを伴った三冊本仕立て。「漱石山房」と刷された原稿用紙は、漱石の丹精な文字でマス目が埋められ推敲(すいこう)の跡が見られる。発見された「幻の4枚」は、「いずれも物語が展開する上で重要な部分」と大東急記念文庫の村木敬子さん。
研究者を対象とした閲覧公開などの教育・研究活動を行う「大東急文庫」は、国宝3点、重要文化財32点を含む約2万5千点を有し、日本有数の特殊文庫として、国文学、国語学、歴史学、美術史学、仏教学をはじめ、国内外のさまざまな分野の研究者に広く利用されている。同館では今年3月に倉庫を整理中に、「正岡子規直筆書簡」も発見されているが、今回は出展しない。村木さんは「いずれは明治の文豪の交流を合わせて紹介する企画も開催したい」と明かす。
今展ではこのほか、館蔵品の中から、平安時代の「古筆」、鎌倉・室町時代の「墨跡」、桃山・江戸時代の「絵画」「奈良絵本」「陶芸」など、各時代を代表する日本美術の名品約60点も合わせて展示する。ギャラリートークや「こども美術講座 王朝絵巻の世界」(10月13日)なども開く。
開館時間は10時~17時(入館受け付けは30分前まで)。月曜休館(9月15日、10月13日は開館)。入館料は、一般=1,000円、高・大学生=700円、中学生以下無料。10月19日まで。